牛の鼓張症

鼓張症について考えてみましょう

 鼓張症といっても様々

牛の鼓張症は急性鼓張症であっても、慢性鼓張症であっても牧場に与える損害はとても大きいものです。少しでも減らす事が出来れば商品化率(育成牧場なら正常に素牛出荷、肥育牧場なら途中出荷されない)が上がり、収益も上がります。

   哺乳中の子牛でみられる鼓張症

北海道の様に濡れ子(生後1週間~2週間の子牛)を買って、素牛まで育て販売するという育成牧場がそれ程多くない地域や母牛に子牛をつけて哺乳させている場合はあまり見る機会がないかもしれません。

私自身もNOSAI診療所時代や黒毛和牛繁殖牧場に勤務していた時には経験した覚えが無いと思います。

哺乳期の鼓張症はルーメンドリンカー(ルーメン:牛の第1胃 で飲む牛という意味です)という病気です。

本来子牛のミルクを消化するのは4つある牛の胃袋の内4番目の第4胃です。4つの胃の繋がりは口から食道、第1胃、第2胃、第3胃そして第4胃、その後小腸へと順に繋がっています。

普通に考えれば子牛が飲んだミルクは食道から第1胃に入って順に移動して第4胃に入ると思うでしょう。しかしミルクは第1胃には入りません。

子牛がミルクを飲むと第2胃が筒状に変形し食道から来るミルクをそのまま第3胃にバイパスさせるのです。この第2胃の動きを第2胃溝反射といいます。

子牛の中には生まれながら第2胃溝反射が十分でない牛がいます。また今までルーメンドリンカーでは無かった牛が急にルーメンドリンカーになる事もあります。今まで見たルーメンドリンカーは後者が圧倒的に多かったです。

後天的にルーメンドリンカーになる理由は定かでは無く、その様な文献も見つかりませんでした。但し後天的になる牛は治療中(肺炎)もしくは治療後の牛に多い様な気がして胸膜の癒着などが原因になっているのかも?と考えています。

長くなりましたが、ルーメンドリンカー(ミルクが第1胃に入る事で起きる鼓張症)は本来第1胃へ入らないミルクが第1胃に落ち異常発酵している状態です。

   ルーメンドリンカーへの対応

  • バケツ哺乳している場合は哺乳瓶に変更してみる。本来子牛がミルクを飲む姿勢は斜め上に口を突き上げる姿勢が自然なので本来の姿勢で飲ませる。
  • 哺乳瓶で哺乳している場合は乳首を新しものに変更する。一度に飲み込むミルクの量を減らして、少しでも第1胃に落ちるミルクを減らす。
  • マミーズマンマプラスを下の写真のように乳首に被せる事で一度に飲み込むミルクの量を減らせます。哺乳瓶でも哺乳バケツでも使用可能です。本来子牛の誤嚥を低減させる為に開発された様です。ミルクをの飲むと直ぐ咳き込んで、ミルクを飲むのを休んでしまう牛が居ます。そんな時にも使います。とても良い商品です。詳しくは販売元ホームページから確認して下さい(販売元:合同会社日本IMI)https://japan-imi-llc.com/mommysmanmaplus/
  • ミルクを飲ませた後、健胃剤(トルラミンやボバクチン)を別途飲ませて異常発酵を抑える。
  • 離乳までまだまだの子牛で、上記で全く効果が無い場合にはスーターターの上に直接ミルクの粉をかけて食べさせる事もあります。
  • 離乳時期より早く、スーターターの食下量が足りていない場合でも離乳する事もあります。離乳後の増体は悪くなりますが何度も鼓張症を繰り返す事で第1胃弛緩症(前胃アトニー、ルーメンアトニーともいい第1胃の筋肉が弛緩してしまう病気)となり早期離乳より増体に悪い影響があると判断した場合です。

 

 

 

 

離乳期から育成期の鼓張症

左の写真は配合飼料を食べると鼓張症を発症しホースでガスを抜きという状況が1か月程続いた牛です。慢性鼓張症になり、痩せてしまっています。

3か月齢くらいの牛です。そもそもこの月齢では配合飼料を食べすぎて鼓張症になる、という程の量は食べません。

牛が鼓張症になる場合(一番最初に鼓張症を発症した時は全てが急性鼓張症です。その後経過が長くなり慢性鼓張症となります)

  1. 食べた配合飼料が第1胃で発酵して出たガス(プロピオン酸、酢酸、酪酸)を吸収する能力が低下しているケース
  2. 第1胃以降肛門までの間で食べて発酵した粗飼料や配合飼料が通過しにくい状態(通過障害)でおならが出にくいケース
  3. 何らかの理由で曖気(ゲップ)が出ない(出にくい)ケースがあります。

①のガスを吸収する能力が低下している場合は子牛から育成期と肥育期で分けて考える必要があります。

上の写真の真ん中あたりと下の写真の右の方につぶつぶした毛の様なものがあります。

これは肥育牛の第1胃の内側です。

毛の様なものは第1胃の絨毛(じゅうもう)といいます。第1胃で発酵したガスはこの絨毛から吸収され栄養となります(それ以外の仕組みでも栄養を吸収しますがそれはいずれ)

生まれて間もない子牛の第1胃は未発達で絨毛はありません。下の写真の左側の様に。

子牛の絨毛を成長させるのに大事なのはスターターです。スターターの食い込みが少ないと絨毛は発達しません。

最近は分かりませんが私が配合飼料会社にいた頃は「スターターは700g食べたら離乳して良い」というのが一般的でした。単純には言えませんが、スターター700gを食べて離乳する牛と1500g食べて離乳する牛とは絨毛の発達が2倍違うとも考えられます。

3か月齢くらいで配合飼料の食下量が増えてくると絨毛が発達していない牛はガスを吸収しきれなくて鼓張症になるのです。

確かにスターターは育成飼料より高価です。しかしここで失敗すると1頭牛をダメにしてしまう事になります。

 肥育牛での鼓張症

肥育牛でも先の1~3の原因で鼓張症になります。但し1のケースはスターターの食い込み不足が原因ではなく、

  • 粗飼料の給与量が少なく、ルーメンマットが形成されない(第1胃の中の水分に粗飼料が浮いて粗飼料の層が出来ます。その上に配合飼料が乗る事で配合飼料は徐々に発酵します)事で急激にガスが発生する。
  • 粗飼料より配合飼料を先に給与すると上記と同じ理由で急激にガスが発生する。
  • 和牛や交雑種では肥育中期でビタミンAを制限します。後述しますがビタミンAは粘膜の正常性を維持するのに必要です。絨毛も粘膜です。絨毛が正常でなくなりガスを吸収できなくなるのです。

などのケースです。昔ですが伺った肥育牧場で「配合を食い込ませるために粗飼料は800gしか与えない」という方がいました。粗飼料が少ないと鼓張症にならずとも反芻が少なくなり唾液が減り(唾液はアルカリ性)アシドーシスになり、ルーメンパラケラトーシス(第1胃角化不全症)になり、肝臓を傷めて廃棄が増え蹄葉炎(つっぱり病)が増える事になり、増体が悪くなります。

 鼓張症への対応

鼓張症の牛を見つけたらまずガスを抜く事が第一です。但しちょっと膨らんでいて、それ以上膨らまないそして牛が苦しそうにしていない場合はあわててホースを入れなくて大丈夫です。反対にホースで食道を傷つけるリスクもありますから。

泡沫性の鼓張症の場合泡立っているのでホースでは抜けない事もよくあります。ガストリンやガスナインなどの消泡剤を飲ませます。若い頃にサラダ油と酢を混ぜて飲ませる方法もあると聞いた事があります(やった事はありません)が、調べると~油が良いという情報がいろいろある様です。

緊急の場合には静脈注射用の針を刺してガスを抜きます。何本か刺しても大丈夫です。

そしてよく見るのはガスを抜いて終わりという牧場です。ここでトルラミンやボバクチンを飲ませておくと再発をかなり減らす事が出来ます。

育成牛でも肥育牛でもビタミンAと亜鉛を与えます。ビタミンAと亜鉛は上皮、粘膜の正常性の維持に必要です。特に頭頂から首にフケが浮いている牛には。フケが浮くという事は上皮が正常では無いという事で、第1胃の絨毛も正常では無い可能性があるからです。

2のケースでは状況に応じて腸の蠕動を促す薬を使ったり下剤を使ったりします。

3のケースでは左のルーメンファイブを飲ませます。ある程度の大きさの牛でないと食道で詰まりますので育成牛では注意が必要です。

直径3cmくらいでしょうか。第1胃で外側のピンクの包装が溶けて丸いタワシの様になります。このタワシが食道出口や第1胃入口を刺激してゲップを出させるというものです。肥育牛ならあ3本くらい。タワシは出荷まで取り出しません。

ルーメンファイブには肉牛用と搾乳牛用がある様です。おそらく肥育牛は生後30か月齢までには出荷されてしまうから耐久性が違うという事なのかと思います。

ルーメンファイブの詳細は名和産業株式会社HPからhttp://www.meiwa-sangyo.co.jp/products.html

畜産現場で気をつけるべき 人の病気②クリプトスポリジウム症

人畜共通感染症の続き

  クリプトスポリジウム症

牛の世界に居ないとなかなか聞く機会の無い「クリプトスポリジウム症」という病気。実は人の感染は1976年に初めて報告され、それまでは牛や豚、犬、猫の病気でした。

日本で人が感染したという報告はなんと1994年でした。26年前です。26年前は石垣島の牧場で働いていまして、東京のなんとか大学の先生が牛のクリプトスポリジウムの保有状況を知りたいと調査に来た事がありました。

23年~25年前くらいだったと思います。日本での初感染報告を受けての調査だったのかと腑に落ちました。

ふと、当時から牛のクリプトスポリジウム症って今の様に問題になってたっけ?とおもいました。NOSAI診療所に居た時「子牛のクリプトスポリジウム症」なんて知らなかったような……ただの不勉強って可能性も大ですが。

   畜産現場でのクリプトスポリジウム感染症

子牛ではせいぜい生後1ヶ月齢くらいまでしか問題にならないクリプトスポリジウム症ですが、人では年齢はあまり関係ありません。

感染した動物(ここでは牛)は糞1g中に数百万のオーシスト(卵だと思って良いです)を排出しなんとオーシスト1個~数個で感染が成立し発症します。

畜産現場で感染するリスクが高まるのは主に子牛の管理に携わる人です。初めて畜産現場(子牛の居る)で働く人は何日かで激しい下痢を経験します。その他の症状は腹痛、嘔吐、脱水、軽度の発熱があります。およそ1週間程度続きます。

ほとんどの人は自然に回復するので心配は要りませんが、下痢の症状が無くなっても2~3週間は便にオーシストを排出し続けます。同居家族に赤ちゃんや抵抗力の弱い高齢者が居る場合は注意が必要です。

家庭内での感染を防ぐのは重要ですが、一般的な除菌剤、消毒薬などは効果がありません。塩素系消毒薬も全く効果がないのです。

70℃2分間加熱、乾燥しかありません。現実的な対応は手をよく流水で洗う事くらいです。

  子牛でのクリプトスポリジウム症を見てみましょう

   クリプトスポリジウム症の原因

牛が下痢をする場合消化不良を除き次の病原体が関与しています。

  • 細菌
  • ウィルス
  • 原虫
  • 寄生虫

上記の内一つの病原体が原因で下痢をしている場合もありますが、多くは複数の病原体が関与していると考える方が良いでしょう。

クロストリジウムはこの中の原虫です。同じく下痢の原因となるコクシジウムも原虫です。クロストリジウムの卵(オーシストといいます)を経口的に摂取する事で感染します。

いつの頃からか「全ての子牛の下痢にクロストリジウムが関与している」と言われる様になりました。

細菌性の下痢であっても例えば「細菌」と「クリプトスポリジウム」、ウィルス性の下痢であっても例えば「ウィルス」と「クリプトスポリジウム」と「細菌」が関与している、という意味です。

特にクリプトスポリジウム症は生後間もない子牛から1ヶ月齢くらいの牛で問題になります。抵抗力の弱い子牛で色んな病原体が混合感染して下痢を起こしているという事なのでしょう。

実際に糞便を検査するとクロストリジウムが検出されない場合もありますが、それ程子牛の下痢にクロストリジウムが関与しているケースが多いと認識するのが良いと思います。

   クリプトスポリジウム症の症状(牛)

下痢と脱水が主症状です。下痢便を見てロタウイルスやコロナウィルスでの下痢と区別する事は困難です。

クリプトスポリジウム症の下痢は黄色い水様便とよく言われます。卵スープの様な下痢という表現もされます。その牛の下痢の主要な原因がクロストリジウムの場合はそうなのかも知れません。実際に黄色い水様便の場合もあります。

ただし上記の様に混合感染している場合はそうでは無い場合もあるのです。白っぽい場合もあり、水様便でなくブニュブニュ(ケーキに絞る生クリームをもう少し水っぽくした感じ)の便の場合もあります

子牛の下痢便をこの色なら原因はこれ、こういう匂いなら原因はこれという資料をたまに拝見しますが、参考程度にご覧になった方が良いと思います。正にこれ!だと当てはまる下痢の方が少ないと思っています。

   予防と治療

現状ワクチンなどの予防法はありません。また、細菌ならその細菌に効果がある抗生物質がありますが、クロストリジウムに効果のある薬もありません。

実際の現場ではネッカリッチという炭の粉を経口的に飲ませ、炭の多孔性(いっぱい穴が開いている)を利用して吸着して体外に排出するという治療をします。同時に整腸剤も投与します。あと卵黄抗体製剤も使います。

予防に関して「卵黄抗体(IgY)製剤の投与がクロストリジウム感染子牛のオーシスト排出量と血清および糞便中IgY濃度に及ぼす影響」(産業動物臨床医誌10(2):68-72、2019)によると

クロストリジウム感染症は生後1ヶ月以内の子牛に水様性下痢を引き起こす。クリプトスポリジウム症に有効な治療薬は存在しないが、子牛の下痢症に対する卵黄抗体(IgY)製剤が市販されており、これに抗クリプトスポリジウムIgYが含まれる。そこで本研究では、クリプトスポリジウム症に対する本製剤の効果を血清中および糞便中IgY動態から検討した。

その方法は

1酪農場の子牛12頭を対照群(通常哺乳)、初乳投与群(初乳に製剤60gを混合して投与)、2週投与群(初乳に60g、生後2週間まで生乳に製剤10g/日を混合して投与)の3群に分けて供試牛とした。試験期間は生後21日目までとし、血液および糞便を採取した。

そして結果は

全ての供試牛がCryptospotridium parvumに感染し、水様性下痢を発症した。糞便1gあたりの平均オーシスト数は2週投与群が、初乳投与群および対照群より有意に少なかった(p<0.05)。また、血清および糞便中の総IgY濃度および抗クロストリジウムIgY濃度は、初乳投与群および2週投与群ともに高値を示し、糞便中の総IgY濃度は生後5~14日目までは2週投与群で初乳投与群よりも有意に高かった(p<0.05)。糞便中の抗クロストリジウムIgY濃度は生後5および7日目に2週投与群で初乳投与群よりも有意に高かった(p<0.05)。本製剤の2週間の継続的な経口投与はクロストリジウム感染子牛のオーシスト排出量を減少させたことから、抗クロストリジウムIgYはクリプトスポリジウム症予防に有用である可能性が示唆された。

とある。

    卵黄抗体製剤とは

私が知る範囲では2社から抗クリプトスポリジウム抗体を含む製剤が発売されています。クロストリジウムの他にサルモネラ、クロストリジウム、コロナウィルス、ロタウイルスの抗体も入っています(少なくとも1社の製剤は)。

私の行っている牧場では通常の治療をしてもなかなか止まらない下痢の時に治療として使っています。

和牛繁殖牧場などで生後1ヶ月以内の子牛下痢に悩んでいる様な場合、予防として使用するのも一つの手だと思います。1頭の子牛が亡くなるのを考えればその手間もお金も無駄にはなりません。

 

 

 

 

 

 

 

畜産現場で気をつけるべき 人の病気 破傷風

人畜共通感染症を知っていますか?

 人畜共通感染症とは

人も動物も感染する感染症の事でズーノーシスとも言われています。

一番分かりやすいのは狂犬病でしょうか?狂犬病ウィルスを保有する犬、猫その他動物に噛まれたり引っ掻かれたりする事で人も発症します。

発症までは数日~数ヶ月で最初は頭痛、発熱、筋肉痛、悪寒などの一般的な症状が出ます。1週間ほどで意識障害、幻覚、錯乱、恐水症(水が恐くなる)など特徴的な症状が出て死亡します。

日本では1957年に撲滅された様ですが、海外では未だ発生していて旅行中は注意が必要です。

 畜産現場で注意が必要なズーノーシスは?

  • 破傷風
  • クリプトスポリジウム症
  • サルモネラ症
  • 大腸菌症
  • 皮膚糸状菌症

それぞれ特徴や注意点などを説明します。

 破傷風

個人的には一番気をつけるべき病気だと思います。原因はクロストリジウム・テタニーという細菌です。感染経路は傷口からです。創傷感染と言います。

飛沫感染や接触感染などと比べるとマイナーな感染経路ですが厄介なのは非常に小さい傷口からでも感染するという事です。

傷口からの感染なので牛から牛、牛から人へ感染する病気ではありません。

  牛の破傷風の症状

潜伏期間は1~3週間と言われています。発症はいきなりです。

急に横臥して「牙関緊急(がかんきんきゅう)」といって歯を食いしばるようになり口が開きません。同時に「後弓反張(ごきゅうはんちょう)」といって特に首が後ろに反り返る様な姿勢を呈します。

あと音などの刺激に非常に過敏になるという症状も教科書にはありますが、私はあまり経験がありません。

最も特徴的なのは後弓反張で牛を座らせようとしても直ぐにバタンと倒れて首が後ろ、顎を上げる様な姿勢になってしまいます。

昔の教科書には大量のペニシリンを投与するとありましたが、最終的に回復した牛は見た事がありません。全身の筋肉が硬直し最終的には心臓の筋肉が硬直して、あるいは呼吸が出来なくなり死亡します。

馬用の破傷風血清がありますが、常備するほど頻繁に出る病気では無いですし……

今まで見た中で発症から死亡まで一番長かったのは10日くらいの牛でした。

  牛の破傷風 意外な感染経路

先に牛から牛への感染は無いと書きましたが、時々同じ牧場内で数日の間に何頭も破傷風を発症するケースがあります。不思議ですよね?

2つの要因が関係しています。一つは非常に小さい傷口からでも感染するという特徴、もう一つはクロストリジウムが土壌菌であるという事です。

足の創傷からの感染であるという記述を見た事がありますが、実は以下の様なケースが多いのでは?と考えています。

口から肛門までの間に傷があれば容易に感染するのです。そしてクロストリジウムは土壌菌といって土の中で生息する菌であり、例えば牧草を土の上に置く、牧草ロールを土の上に置く、あるいはロールが破れるなどのシチュエーションでクロストリジウムは牧草にくっつきます。

それは自分の牧場でなくても外国の圃場や購入牧草の生産過程でも起こり得ます。更に厄介な事にクロストリジウムは芽胞菌であるという事です。

芽胞菌は周りの環境が悪くなると芽胞という殻を作ります。100℃の熱にも耐えられ乾燥にも強いのです。いくら時間が経過しても死なず環境が良くなるのをジッと待っています。

その牧草を牛に与えると(クロストリジウムにとっては良い環境になります)、潜伏期間の差で牛から牛へ感染している様に何頭もの牛が破傷風を発症するのです。

  発生には地域差がある?

私は北海道十勝地方を中心に働いているのでそれ以外の地域や県での発生状況は分かりません。

ただ十勝地方の中でも町によって発生の多い町が確かにある様に思います。あるいは牧場によってと言っても良いかもしれません。

逆に一度クロストリジウムによって場内が汚染されると土壌菌、芽胞菌という特性上撲滅は出来ないという事なのかも知れません。

  人の破傷風の症状

  • 痛みを伴う筋肉の痙攣やこり
  • 口が開きにくい
  • 痙攣
  • 大きな音や光によって誘発される数分間継続する痛みを伴う体の痙攣 など

今でも日本で年間100人が感染し5~10人が死亡(死亡率5~10%)している様です。

  実は破傷風になった事があります

大学時代に牛の牧草を収穫していた時、牧草用のでっかいホークを振って歩いていました。ホークの先がコツンと長靴にぶつかったんです。よく見ると長靴に一つ穴が開いていました。

足に刺さった訳では無かったのでさほど気にもしていませんでした。部屋に帰って靴下を脱ぐと足の皮が少しだけ剥けていました。それからどれくらい時間が経ったか忘れてしまいましたが、1週間とか3週間とかではなく翌日か翌々日かだったと思います。

ホークが刺さった足の甲から痺れが出始めて次第にふくらはぎ、膝へと痺れが広がってきました。破傷風の事は知っていましたので「やばい!!!」と思い急いで大きな病院に行き、経緯を説明したところ破傷風の血清を打ちましょうと血清を打って頂きました。

症状は直ぐに消えました。2度目の血清(何度も打つ物ではないんでしょうが…..)はスタンチョンに入っている牛が頭を餌槽に突っ込んで居たので耳標番号を確認しようとしたところ、牛が驚いて顔を上げ彼(彼女?)の額が私の顎下に直撃、自分の上の歯で下唇を噛んでしまい大出血。念のためという事で血清を打って頂きました。

  少しでも疑いがあれば直ぐ病院へ

自分で気づけない程小さい傷口からでも感染します。

畜産の現場で仕事する人達はその他の人よりリスクは高くなります。大きな病院には破傷風の血清が置いてあります。

2度目の血清は石垣島に住んでいる時でした。島で一番大きな八重山病院でした(お世話になりました)が、やはり府県の大病院と比べると小さな病院でした(石垣島を馬鹿にしているんじゃないですよ。石垣島は第2の故郷です)。それでも破傷風血清はありました。

牧場で働いている事は必ず説明して下さいね。

  実はワクチンもある様です

獣医学科に進学した息子から「秋に破傷風のワクチン打つんだって」と言われ、破傷風ワクチンってあるの?と思って調べてみると、なんと子供の時に接種した3種混合ワクチンに「破傷風」も入っていました。

「ジフテリア」「百日咳」と「破傷風」だそうです。そこには接種は赤ちゃんの時2回、就学前もしくは11~12歳、そして成人に1回の4回打つとありました。成人?成人になって打った覚えがありません。我々の時は大学で打つ事も無かったはず…..

破傷風の話だけで長くなってしまいました。その他ズーノーシスは次回にします。

ウルソデオキシコール酸について

 そもそもウルソってなんだっけ?

先回エンドトキシンの話で血中のエンドトキシン濃度を低下させるのにウルソデオキシコール酸が効果があったという宮城県農業共済組合連合会の「エンドトキシン血症とその治療法」(東北家畜臨床研究会報NO.8 64~69) という論文について紹介しました。

使用するタイミングについては考えるところはありますが、私には新しいアプローチでした。不勉強のせいで長いこと「強肝剤」だと思っていましたが、ある時添付文書を見る機会があり(普通は最初によく読みますよね…..(^^;) )あれ?と。

牛に使うウルソデオキシコール酸は静注用と経口投与用があり、また豚用に筋注用の注射液もあります。昔は肥育牛で中期の食い止まりや代謝性腸炎などの時によく静注用を使っていました。経口用はあまり使っていませんでした。

 静注用と経口用では使用するケースが違うのか?

静注用ウルソの添付文書には①利胆作用(胆汁酸のうっ滞を改善)②肝血流量の増加③脂肪吸収促進、その他ちょっと難しそうな作用が2,3あって、膵液分泌促進作用となっています。

経口用ウルソの添付文書にはその他に胃液分泌促進作用が加わっています。①②その他ちょっと難しそうな作用は確かに強肝剤だと言えます。③の脂肪吸収促進作用と膵液分泌促進作用、胃液分泌促進作用って消化を助ける作用ですよね。昔子牛の下痢でエンドコールやウルソV(豚用の筋注できるウルソ)をよく使いましたが正直ウルソの効果は疑問でした。

 ウルソ注射とウルソ粉の違い

ウルソVは体重1kgにウルソデオキシコール酸として1mg(あくまで豚の場合)なので体重50kgの子牛には50mg(製剤として5ml)、一方ウルソ5%散は1頭100~150mg(製剤として2~3g)。投与量の問題でした。足りなかったんですね(^^;)。

牛用の静注用ウルソを使えば良かったのですが、注射器に吸う時にとても泡立つのとブドウ糖以外とは混注できないなど多少使いづらい事もあって避けてました。

 子牛がミルクを飲まないと起きる事

子牛がミルク飲まないというケースは多々ありその影響は色々な事に及びますが、今回はウルソデオキシコール酸の話なのでウルソデオキシコール酸(胆汁酸)への影響を考えてみます。

子牛がミルクを飲むと血中コレステロールが上昇してコレステロールは肝臓で色々な物に合成される原料となります。その一つが胆汁酸(ウルソデオキシコール酸)です。さて胆汁酸の作用には脂肪吸収促進作用や膵液分泌促進作用、胃液分泌促進作用があると先に記しました。

下痢であれ肺炎であれ何らかの原因でミルクが飲めない子牛は肝臓での胆汁酸の合成が低下します。つまりミルクの消化や脂肪吸収能力が低下します。そうすると朝飲んだミルクを消化できずに夕方のミルクは飲めない。夕方飲めないので胆汁酸の合成が低下するけど、朝はお腹が空いているので飲む。でも夕方は消化できないので飲めない、という悪循環に陥ります。

他の原因もありますが朝は飲むけど夕方のミルクは飲まないというケースではこのケースが多い様に思います。朝ミルクを飲んだ後ウルソを与え夕方は飲んでも飲まなくてもウルソを飲ませる。何日か継続するとミルクを飲まなくても消化能力の低下は避けられ、夕方のミルクも飲めるようになり、肝臓での胆汁酸の合成が正常化して悪循環から抜けられるのです。もちろん大元の下痢や肺炎などの治療は必須ですが…..

 ただし悩ましい問題もあるので注意が必要

大変な酒飲みなのですが一度夏バテして以来、いつもの量を飲んでも翌日お酒が残る日々が続いた事がありました。車には牛用のウルソがあったのでよしって事で飲んでみました。ティースプーン1杯を毎夕に。さすが強肝剤、二日酔いはほぼ無くなりこれは良いと続けていました。

が、下痢に悩まされる様になったのです。元々お腹が緩い方ですがあまりにも酷いのでもしかしてと思い調べてみるとなんと人で「胆汁性下痢」なるものがあると知りました。胆汁酸の他の作用に大腸の蠕動(動き)を促進するというものがあったのです。

牛では聞いたことがありませんし、添付文書には牛用ウルソ(豚も)に下痢を引き起こす可能性についての記述はありません。今のところ牛でウルソを与えた事で下痢が悪化したという経験はありませんが、人で起こりうる事は牛でも当然起こり得ます。

上記のミルクを飲めない牛の場合、朝夕ウルソを飲ませて順調に飲むようになってから2~3日でウルソの投与は止めてもらう様にしています。なんでもやり過ぎは良くないですね。

 

サルモネラワクチンからエンドトキシンの話

サルモネラワクチンの話からエンドトキシンの話へ

 サルモネラワクチンについて

牛のサルモネラワクチンは2つの会社から出ている2種類です。一つは明治製菓ファルマ(現meiji seika ファルマ)の「牛サルモネラ2価ワクチン」でもう一つはMSD Animal Healthの「ボビリスS」です。牛サルモネラ2価ワクチンは欠品中なのでボビリスSしかありません。

2つのワクチン共サルモネラ・ダブリンとサルモネラ・ティフィミリウムの発生予防が目的なのは同じです。価格はボビリスSが少し高い。それはボビリスSはサルモネラ菌が死滅する時に放出されるエンドトキシンを吸着できるからとの事。

確か15年以上前にサルモネラワクチンを打つと牛が崩れるという話をよく聞きました。今考えるとエンドトキシンの影響だったのかと思います(エンドトキシンの話は後述します)

 ワクチンの効果はあるの?

3週間間隔で2回摂取します。3ヶ月齢前後でサルモネラが流行した牧場で導入間もなくワクチンを打つようになって、その後ピタリと発生が無くなりました。効果は確実です。

残念ながら最近は濡れ子(生後1週間から2週間くらいの牛)を導入して直ぐにサルモネラワクチンを打っても2回目の摂取は導入後3週間目になり、その間に発症するケースが多いです。ただ全くワクチンを打っていない時より症状は軽く済むというのが印象です。

 エンドトキシンとはなんぞや

サルモネラ菌や大腸菌などはグラム陰性菌という種類の菌です。グラム陰性菌はその膜にリポ多糖類を含み、そのリポ多糖類がエンドトキシン(簡単に言えば)。

エンドトキシンが血流に入れば発熱、呼吸促迫、低血圧を起こしひどい場合にはショックを起こします(エンドトキシンショック)。かつてサルモネラワクチンを打つと牛が崩れるという話は血中エンドトキシンが増えた事によるのでは?

そうするとワクチンを打つとサルモネラ菌が死ぬのか?という疑問が生じますが、違う機序の様な気がします(いつか専門家に聞いてみます)。

 肉牛におけるエンドトキシン

肥育牧場の方はよく耳にする言葉でしょう。サルモネラ菌や大腸菌もグラム陰性菌ですが、牛の第1胃にも飼料などを発酵させる菌がたくさん居てグラム陰性菌も多く住み着いています。

どのような時にルーメン(第1胃)内のグラム陰性菌は死ぬのでしょうか?牛は配合飼料と粗飼料を食べます。配合飼料はルーメンで発酵するとプロピオン酸や酪酸などの酸を発生します。

適切な給餌で適切な配合飼料の量であれば問題ありませんが、配合飼料を粗飼料より先に餌槽に給餌したり、粗飼料の量が少なかったり、大量の配合飼料を与えたり(肥育はそうゆう作業ですから仕方ないのですが……)すると酸が急激に増えてルーメン内が酸性になります。

この酸によりルーメン内のグラム陰性菌が死にます。そしてエンドトキシンがルーメン内に放出されるのです。

 エンドトキシンの悪影響

肥育牧場のみでなく育成牧場の離乳後でも見られますが、エンドトキシンが大量に放出されるとルーメンの粘膜が傷つき禿げてしまいます(ルーメンパラケラトーシス:第1胃不全角化症という病気)。

禿げた所からエンドトキシンが血流に乗り肝臓へ行くと障害を起こし肝臓廃棄が増えます(肥育牛で)。

たくさんの酸(ガス)が出るので鼓張症も起きます。

また、エンドトキシンが放出されると普段は眠っているヒスタミンが活性化され、血管を拡張させます。牛の飛節から下が1.5倍~2倍くらいに腫れているあれです。血管が拡張したことで血漿成分が染み出て太くなって冷性浮腫を起こします。

更にヒスタミンは蹄で炎症を起こします。これが蹄葉炎、いわゆるツッパリ病です。

 獣医師としての対応

もちろんそれぞれの病気に対してそれぞれの治療を行いますが、肝臓廃棄が多いあるいはガスが多い等飼養管理面の原因の究明をします。今回は新しいアプローチ(不勉強なだけかも?)を見かけましたので紹介します。

宮城県農業共済組合連合会 古川家畜診療所による「エンドトキシン血症とその治療法」東北家畜臨床研究会報.No.8 64~69によると

ルーメンアシドーシス、産褥熱、乳房炎では比較的高い血中エンドトキシン濃度が観察され、それらの牛に対し、UDCを投与した所、明らかな血中エンドトキシン濃度の減少が見られた。

とありました。UDCはウルソデオキシコール酸、つまりウルソです。ただし以下の文章が続きます。

しかし一度組織に結びついたエンドトキシンを引き離すことは、むずかしいといわれている。そこでこの胆汁酸製剤は、細菌死滅数時間後にエンドトキシン濃度が増加すると推測される時に、他の薬剤と併用することで、より多くの効果をあげることができるとおもわれる。

との事。いつまでたっても知らない事ばかり。勉強は大切ですね。

 

子牛のサルモネラ症が増えています②

前回に続き子牛のサルモネラ症について書いていきます。

サルモネラ症が出ると牧場には大きな被害が出ます。一つは症状が激烈なサルモネラであった場合、次々に移り朝牛舎に行くと何頭か死亡しているといった状況になり将来売るべき牛が減ってしますという被害です。

もう一つは同居牛の全頭検査、陽性牛の治療、消毒の繰り返しで莫大な費用がかかるという被害です。同居牛の全頭検査や餌槽や牛房の床などの環境検査は全てが陰性になるまで延々と続きます。検査費用は確か最初の1回分しか費用はかからないはずでしたが…陽性牛の治療や消毒は続きます。止められないのです。なぜ止められないのか?

 サルモネラ陽性になったら

①糞便検査でサルモネラが陽性になると家畜保健衛生所に連絡が行きます。家畜保健衛生所でなく民間の検査センターで検査して陽性が出た場合でも家畜保健衛生所に連絡が行きます。

②家畜保健衛生所で遺伝子型を特定します。この時サルモネラ・ダブリン、サルモネラ・ティフィミリウム、サルモネラ・エンティリテディス、サルモネラ・コレラエスイスだと同定されると家畜保健衛生所から役場に連絡が行きます。また、農協を使っている場合は農協へも連絡が行きます(農協を使っていない場合は農協へ連絡が行かないのかは自信がありませんが)。

③更にNOSAIに加入している場合はNOSAIにも連絡が行きます。

④役場の人、農協の人達が消毒を手伝ってくれます。NOSAIが陽性牛の治療をしてくれます。家畜保健衛生所が検査します。全頭が陰性になるまで続くのです。たとえ牧場主がもう費用がかかりすぎるので止めたいと言っても止められないのです

 

 いつから全頭検査で陰性となるまで…になったのか?

私もかつてサルモネラが出たら全頭検査をして、全頭が陰性になるまで消毒、治療、再検査を繰り返すものだと思っていました。かつてはサルモネラが法定伝染病(詳しくは後述します)だったのか?

30年近く獣医をしておりますが不勉強なのか記憶にありません。同じように家畜保健衛生所の先生方もNOSAIの先生方も陰性になるまで続けるのは当たり前だと思っているからだとしか考えられません。最初に強制ではありませんが全頭検査しますか?という選択肢を提示すべきでは?と思います。

 

 ここで大きな疑問が生じます。

前回のブログで、ある牧場で原因のよく判らない死亡が続き何度も血液や鼻のスワブ検査、便のスワブ検査をしても原因が判らず、何ヶ月もかかってサルモネラだと判明した事があったと書きました。上記の全頭検査で陰性になったからってサルモネラが牧場から無くなったという保証は無いと言うことになります。そもそも検査で陽性とならない事があるからです。

 

 私の契約牧場では全頭検査は行いません

私の契約牧場でも糞便検査でサルモネラが陽性になる事はあります。上記①~③の流れは同じです。役場、農協に連絡が行きます。NOSAIに加入している牧場は少ないのでNOSAIには連絡が行きません。

この時管理獣医師が居ると家畜保健衛生所から連絡が来て「全頭検査はされますか?今後どのような方針でされますか?」と聞かれます。牧場主と相談し上記の様に止められない状況になり得る事も説明します。当然全頭検査をしない事になります。

この時点で農協や役場から牧場に連絡があり、消毒や検査の手伝いをしましょうか?と聞かれます。牧場主さんから「管理獣医師と対応するから結構です」と言ってもらいます。

 

 全頭検査をしなくて大丈夫なの?

サルモネラが出た後の全頭検査は強制ではありません。昨今の鳥インフルエンザの報道で見る白い防護服を着た家畜保健衛生所の人がたくさん来るというイメージの人も居るでしょう。あれは鳥インフルエンザが法定伝染病だからです。サルモネラ症は法定伝染病では無くて届出伝染病です。診断した獣医師が都道府県知事に届け出るという事が義務であり、それ以外は義務では無いのです。全頭検査をしても、あるいはしなくても牧場と管理獣医師に出来ることは決まっています。予防と治療です。

子牛のサルモネラ症が増えています

 以前は珍しかった子牛のサルモネラ症

 数年前から増えてきました

ここ3,4年 子牛のサルモネラ症がとても増えています。数年前まではサルモネラは怖いけど滅多に出るものじゃないし…..なんて感じでしたが。

今では育成牧場(濡れ子を導入して素牛まで育てる)でする着地検査(セリで購入した牛を牧場に下ろす前にサルモネラの検査をします)でも度々陽性牛が出ます。また、下痢の原因を調べるとサルモネラが出ることも珍しく無くなりました。

 症状は血便?

特にサルモネラ・ダブリンとサルモネラ・ティフィミリウムです。

症状は様々で一番に頭に浮かぶ血便はもちろん、血便ではなく特にやばい感じがしないけど治りにくい下痢のケース、肺炎症状のみの場合もありますし脳炎の様にいきなりぶっ倒れる様な牛も居ました。

反対に着地検査で陽性になった牛の多くは無症状であり、一応下痢便を調べた牛でティフィミリウム陽性の牛で血便も無く、3日程度の抗生物質投与でケロッと直る牛も居ます。

 検査すれば陽性・陰性は判るの?

問題になるのは無症状の牛と激烈な症状を出す牛です。ある牧場では着地検査をしていたのに、生後3ヶ月くらいの群で次第に死亡事故が増えてきました。明らかな下痢症状は無く鼻と腸から採剤して、血液も何度も調べましたが原因が判らずという事がありました。

血液や腸のスワブ、便では検出されにくいというのもサルモネラのたちの悪いところです。

検査が陰性でもサルモネラを保菌しているという状況は当たり前にあります。つまり導入時陽性にならず保菌していた牛が、ストレスがかかるタイミングで発症し他の牛が感染していたのです。

急激に広がるサルモネラもありますが、じわじわ広がり死亡事故がだらだら続くというパターンもあるのです。

 治療はニューキノロン系抗生物質でOK? 

激烈な症状を出すサルモネラの場合、個人的にはダブリンで多いように思いますが、ニューキノロン系抗生物質を使って治療して改善したと思っても、しばらくすると再発する事があります。

それを繰り返して次第に衰弱してしまいます。NOSAIに糞便検査を依頼してサルモネラ陽性となると、陰性になるまで治療と検査を繰り返す様な場合もあります(当方では陽性牛でも陰性になるまで検査を繰り返す事はありません)が、ニューキノロン系抗生物質だけではなかなか陰性にならないのです。

ニューキノロン系抗生物質だけではサルモネラ(特にダブリン)を完治させるのはむずかしいのです。

サルモネラといえば血便ですが、ややこしい事に必ず血便が見られるというわけではありません。コクシジウム症で必ずしも血便が見られないのと同じです。