畜産現場で気をつけるべき 人の病気 破傷風

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人畜共通感染症を知っていますか?

 人畜共通感染症とは

人も動物も感染する感染症の事でズーノーシスとも言われています。

一番分かりやすいのは狂犬病でしょうか?狂犬病ウィルスを保有する犬、猫その他動物に噛まれたり引っ掻かれたりする事で人も発症します。

発症までは数日~数ヶ月で最初は頭痛、発熱、筋肉痛、悪寒などの一般的な症状が出ます。1週間ほどで意識障害、幻覚、錯乱、恐水症(水が恐くなる)など特徴的な症状が出て死亡します。

日本では1957年に撲滅された様ですが、海外では未だ発生していて旅行中は注意が必要です。

 畜産現場で注意が必要なズーノーシスは?

  • 破傷風
  • クリプトスポリジウム症
  • サルモネラ症
  • 大腸菌症
  • 皮膚糸状菌症

それぞれ特徴や注意点などを説明します。

 破傷風

個人的には一番気をつけるべき病気だと思います。原因はクロストリジウム・テタニーという細菌です。感染経路は傷口からです。創傷感染と言います。

飛沫感染や接触感染などと比べるとマイナーな感染経路ですが厄介なのは非常に小さい傷口からでも感染するという事です。

傷口からの感染なので牛から牛、牛から人へ感染する病気ではありません。

  牛の破傷風の症状

潜伏期間は1~3週間と言われています。発症はいきなりです。

急に横臥して「牙関緊急(がかんきんきゅう)」といって歯を食いしばるようになり口が開きません。同時に「後弓反張(ごきゅうはんちょう)」といって特に首が後ろに反り返る様な姿勢を呈します。

あと音などの刺激に非常に過敏になるという症状も教科書にはありますが、私はあまり経験がありません。

最も特徴的なのは後弓反張で牛を座らせようとしても直ぐにバタンと倒れて首が後ろ、顎を上げる様な姿勢になってしまいます。

昔の教科書には大量のペニシリンを投与するとありましたが、最終的に回復した牛は見た事がありません。全身の筋肉が硬直し最終的には心臓の筋肉が硬直して、あるいは呼吸が出来なくなり死亡します。

馬用の破傷風血清がありますが、常備するほど頻繁に出る病気では無いですし……

今まで見た中で発症から死亡まで一番長かったのは10日くらいの牛でした。

  牛の破傷風 意外な感染経路

先に牛から牛への感染は無いと書きましたが、時々同じ牧場内で数日の間に何頭も破傷風を発症するケースがあります。不思議ですよね?

2つの要因が関係しています。一つは非常に小さい傷口からでも感染するという特徴、もう一つはクロストリジウムが土壌菌であるという事です。

足の創傷からの感染であるという記述を見た事がありますが、実は以下の様なケースが多いのでは?と考えています。

口から肛門までの間に傷があれば容易に感染するのです。そしてクロストリジウムは土壌菌といって土の中で生息する菌であり、例えば牧草を土の上に置く、牧草ロールを土の上に置く、あるいはロールが破れるなどのシチュエーションでクロストリジウムは牧草にくっつきます。

それは自分の牧場でなくても外国の圃場や購入牧草の生産過程でも起こり得ます。更に厄介な事にクロストリジウムは芽胞菌であるという事です。

芽胞菌は周りの環境が悪くなると芽胞という殻を作ります。100℃の熱にも耐えられ乾燥にも強いのです。いくら時間が経過しても死なず環境が良くなるのをジッと待っています。

その牧草を牛に与えると(クロストリジウムにとっては良い環境になります)、潜伏期間の差で牛から牛へ感染している様に何頭もの牛が破傷風を発症するのです。

  発生には地域差がある?

私は北海道十勝地方を中心に働いているのでそれ以外の地域や県での発生状況は分かりません。

ただ十勝地方の中でも町によって発生の多い町が確かにある様に思います。あるいは牧場によってと言っても良いかもしれません。

逆に一度クロストリジウムによって場内が汚染されると土壌菌、芽胞菌という特性上撲滅は出来ないという事なのかも知れません。

  人の破傷風の症状

  • 痛みを伴う筋肉の痙攣やこり
  • 口が開きにくい
  • 痙攣
  • 大きな音や光によって誘発される数分間継続する痛みを伴う体の痙攣 など

今でも日本で年間100人が感染し5~10人が死亡(死亡率5~10%)している様です。

  実は破傷風になった事があります

大学時代に牛の牧草を収穫していた時、牧草用のでっかいホークを振って歩いていました。ホークの先がコツンと長靴にぶつかったんです。よく見ると長靴に一つ穴が開いていました。

足に刺さった訳では無かったのでさほど気にもしていませんでした。部屋に帰って靴下を脱ぐと足の皮が少しだけ剥けていました。それからどれくらい時間が経ったか忘れてしまいましたが、1週間とか3週間とかではなく翌日か翌々日かだったと思います。

ホークが刺さった足の甲から痺れが出始めて次第にふくらはぎ、膝へと痺れが広がってきました。破傷風の事は知っていましたので「やばい!!!」と思い急いで大きな病院に行き、経緯を説明したところ破傷風の血清を打ちましょうと血清を打って頂きました。

症状は直ぐに消えました。2度目の血清(何度も打つ物ではないんでしょうが…..)はスタンチョンに入っている牛が頭を餌槽に突っ込んで居たので耳標番号を確認しようとしたところ、牛が驚いて顔を上げ彼(彼女?)の額が私の顎下に直撃、自分の上の歯で下唇を噛んでしまい大出血。念のためという事で血清を打って頂きました。

  少しでも疑いがあれば直ぐ病院へ

自分で気づけない程小さい傷口からでも感染します。

畜産の現場で仕事する人達はその他の人よりリスクは高くなります。大きな病院には破傷風の血清が置いてあります。

2度目の血清は石垣島に住んでいる時でした。島で一番大きな八重山病院でした(お世話になりました)が、やはり府県の大病院と比べると小さな病院でした(石垣島を馬鹿にしているんじゃないですよ。石垣島は第2の故郷です)。それでも破傷風血清はありました。

牧場で働いている事は必ず説明して下さいね。

  実はワクチンもある様です

獣医学科に進学した息子から「秋に破傷風のワクチン打つんだって」と言われ、破傷風ワクチンってあるの?と思って調べてみると、なんと子供の時に接種した3種混合ワクチンに「破傷風」も入っていました。

「ジフテリア」「百日咳」と「破傷風」だそうです。そこには接種は赤ちゃんの時2回、就学前もしくは11~12歳、そして成人に1回の4回打つとありました。成人?成人になって打った覚えがありません。我々の時は大学で打つ事も無かったはず…..

破傷風の話だけで長くなってしまいました。その他ズーノーシスは次回にします。

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