エンドトキシン再考②

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引き続きエンドトキシンについえ考える

 前回は

前回エンドトキシンについて

  • 粗飼料多給牛群の第1胃でもエンドトキシンは存在し、第1胃静脈血液中にも存在するが末梢血液では検出されない。
  • 配合飼料を多給すると第1胃、第1胃静脈血液中のエンドトキシン濃度は著増し、末梢血液中にエンドトキシンが検出される。
  • 肝臓に流入するエンドトキシン濃度が40 pg/mlを超えると肝臓でのエンドトキシンの解毒限界を超え、溢れたエンドトキシンが末梢血液中に流入、エンドトキシン血症を発症する
  • 腸管からのエンドトキシン吸収もある

という論文について紹介しました。

 まずアシドーシスについて

育成牛後期や肥育牛では給与する配合飼料が増え第1胃が酸性に傾くのは致し方無いのです。粗飼料多給牛の第1胃phはどれくらいかというと6.8~7.0くらいです。

ではルーメンアシドーシスでのphはどうでしょう?急性アシドーシスではph5.5以下になります。今ではあまり無い様に思います。あるいは地域や飼養形態によってあるのかもしれませんが。

急性アシドーシスは処置を迅速に行わないと牛が死亡します。第1胃が急激に酸性に傾くと牛の体は第1胃の酸性を薄めようと体の水分を第1胃に移動させます。そのため急激な脱水症状が見られ、併せて水様性の下痢もしますから急激に体水分が喪失します。大量の点滴で体水分量の確保とphの補正(重曹の点滴)を行い、強肝剤の投与、必要に応じて胃洗浄などを行います。

昔遭遇した急性アシドーシスで多かったのは牛が牛房から脱走して置いてある配合飼料やトウモロコシ圧ペンを盗食したというケースです。

希なケースで給餌車で育成牛に与えるべき配合飼料を間違って肥育牛舎へ給餌してしまい、喜んだ肥育牛がおいしい育成飼料を食べ過ぎて急性アシドーシスでバタバタ倒れて、何頭も同時に点滴したなんて事もありました。

もっと一般的に育成牛や肥育牛で見られるアシドーシスは亜急性アシドーシスです。亜急性アシドーシスといわれる病態では第1胃のphは5.6~5.8の状態が1日3時間以上あり、それ以外の時間はph5.8以上に回復するという変化が起きています。

 ルーメンパラケラトーシスを知ってますか?

第1胃不全角化症ともいいます。

まず角化とはから見てみます。ヒトの肌でいうと皮膚表面は角質層であり、その下に順に顆粒層、有棘層、基底層があります。肌細胞は基底層で基底細胞として生まれ、有棘細胞、顆粒細胞、角質細胞へと順に押し上げられていきます。最表面で角質細胞になる事を角化(角質化)といいます。

角質細胞は表面で肌を守る働きをします。角化不全はそれが正常に行われない状態です。

またヒトで説明しますがヒトの肌細胞は28日で新しい細胞に入れ替わります。ターンオーバーというらしいです。

メイクや間違った洗顔などで角質細胞が乾燥や刺激を受けると28日より早く剥がれ落ちてしまします。すると未成熟な細胞が角質層に押し上げられます。ただ未成熟な細胞ですので肌を守る機能も弱いのです。

これと同じ事が第1胃の粘膜で起こります。原因は酸です。つまりアシドーシスです。

第1胃粘膜細胞が剥がれ未成熟な細胞が表層に出てきますが、また酸により剥がれ落ちる。それを繰り返す事で第1胃粘膜が剥げ落ちて吸収能力が低下する、あるいは角化出来ない絨毛同士がくっついて塊になってしまいバリア機能も失う事になります。

次に引用する文献では第1胃静脈から肝臓へと流れ込むエンドトキシンの動態とは別に、ルーメンパラケラトーシスがエンドトキシン動態に与える影響を調べています。

なお、引用文中のLipopolysacchride(LPS)はエンドトキシンと同じ意味です。「牛のエンドトキシン血症における第一胃運動、第四胃運動および肝臓への影響(産業動物臨床医誌10(1):1-16,2019の試験では

全頭(5頭)について粗飼料主体の給餌(1日あたり乾草6kg、市販の配合飼料3kg)を4週間行い馴致した後、濃厚飼料受胎の給餌(1日あたり乾草1kg、配合飼料3kg、圧ペンn大麦5kg)に切り替えて4週間の制限給餌を行った。濃厚飼料主体の給餌に切り替え後、定時ごとの採材と臨床症状の観察を行い4週間後に病理解剖検査を実施した。

結果は

第1胃パラケラトーシスおよび肝臓の巣状壊死が認められた牛(№.3~5:3頭)と全臓器に病変がない牛(№.1~2:2頭)の2群に大別された。

また臨床症状は

臨床症状については、試験の全期間を通して全頭(5頭)において特段の臨床症状はみとめられず、採食量にも変化は認められなかった。

第1胃液のphは

第一胃パラケラトーシス群と病変なし群の間で第一胃液phの変動に違いは認められなかった。また両群ともに軽度の第一胃アシドーシスを生じた。

第1胃エンドトキシン量の結果は

第一胃液のLPS濃度は、両群ともに飼料変換1日後から増加が始まり7~14日後にかけてLPS濃度の増加ピークを迎える、ほぼ同じ変動を示した。

血液中のエンドトキシン濃度の結果は

血清LPS濃度は、第一胃パラケラトーシス群についてはPreではLPSは検出されないが飼料変換1日後には2.53±3.6 pg/mlと検出され、7日後にピーク値(10.2±2.9 pg/ml)を示し、28日後には5.3±3.9 pg/mlになった。血清LPSは第一胃パラケラトーシス群の全頭(3頭)で検出された。一方、病変なし群では、試験の全期間を通じて全頭(2頭)で血清中にLPSは検出されなかった。

とある。つまり

  • 濃厚飼料主体の給餌をしたところ3頭はルーメンパラケラトーシスと肝臓の巣状壊死が認められ2頭は全臓器に異常が無かった。
  • 5頭全頭で臨床症状は認められなかった。
  • 第1胃液のphは両群で変化は無かった。
  • 第1胃エンドトキシン濃度は両群で同じ変動を示した。
  • 第1胃パラケラトーシス群は血液中にエンドトキシンを検出したが、病変なし群は血液中にエンドトキシンを検出しなかった。

 ルーメンパラケラトーシスを防ぐ事がエンドトキシン血症を防ぐ事になる

エンドトキシン血症になったらどのような弊害があるのか?についてはまたの機会にする事にしますが、100%でないにしてもルーメンパラケラトーシスを防ぐ事がエンドトキシン血症を防ぐ事になるって事です。100%ではないというのは前回のブログの「肝臓に流入するエンドトキシン濃度が40 pg/mlを超えると、肝臓の解毒の処理限界を超え、血液中にエンドトキシンが溢れる」という研究結果があるからです。また、感染したグラム陰性菌が死滅した場合のエンドトキシン血症についてはルーメンパラケラトーシスとは関係ないため防ぐ事は出来ません。

いずれにしろ亜急性アシドーシスを防ぐ事がエンドトキシン血症の発生をある程度防ぐ事になるという事になります。

 

 

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