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点滴を考える際の大事な平衡①
平衡って何?
平衡という言葉の意味は「釣り合っている」「バランスが取れている」という事です。点滴を考える前に牛の体の中では常に幾つかの「平衡」がある事を知る事はとっても大事です。
体の中の平衡(点滴にはとっても大事です)
細胞内液と細胞外液の圧の平衡
細胞内液とは文字通り「細胞の中の液体」で細胞一つ一つの中にある水分、細胞外液はそれ以外「血管内の液体、リンパ液内の液体、細胞と細胞の間にある液体」。同じ体内の液体ですがこれは別物なのです。
これとっても大事です。細胞内液と細胞外液は同じ圧力で釣り合っています。圧力は「浸透圧」と表現される事が多いです。牛であれ人であれ体は必ずこの細胞内液と細胞外液の圧(浸透圧)が釣り合うように調整します。我々人も体が自動でやってくれています。
そして最も大事なのは「細胞内液と細胞外液のバランスが崩れると水分が移動する」という事です。
詳しく説明するのは大変なので簡単に説明すると、細胞外液(血管内等)の圧(浸透圧)を維持しているのはナトリウム、カリウム、カルシウム(のイオン状態:覚えなくて大丈夫)です。
つまり、血管内の圧力が低下するという事はナトリウム、カリウム、カルシウムの濃度が低下するという事です。
どんな時にナトリウム等の濃度が低下するのでしょう?
- ナトリウム、カリウム、カルシウムが体内から出て行った時(下痢で電解質、ナトリウム等が体外に流出するなど)
- ナトリウム等は無くらならいけど、血管内に水分が増えて薄まった時(5%ブドウ糖だけを点滴したなど:後述します)
反対に血管内のナトリウム等の濃度が高まるのはどんな時でしょう?
- 血管内から水分が減った時(水が飲めない、ハアハアで呼気から水分が蒸発、熱中症で汗、呼気から水分が蒸発など)
- 点滴で過剰にナトリウム等が血管内に供給された時(動物の点滴ではあまり気にしなくて大丈夫)

①細胞外液(血管内等)の圧力が低下するとどうなるでしょう?
体は「やばい、血管内の圧力が下がった!血管内の水分を外に出せば細胞内も少し薄まり平衡が維持できるはず!」と、血管内の水分を血管外(細胞内の方)流出させます。
②細胞外液(血管内等)の圧力が上がった時はどうなるでしょう?
体は「やばい、血管内の圧力が上がった!血管内の圧力を下げるために、細胞内液から水分を血管内に引っ張って薄めよう!」と細胞内液から細胞外液に水分を移動させます。
水分が移動した結果どんな事が起きる?
- ①の結果、血管内の水分が細胞内に移動します。体中で起きますが、当然肺内でも起こります。肺内の血管から肺の中へ水分が出ます。肺の中に水が貯まると酸素の取り入れが出来なくなります。この状態が肺水腫です。肺炎時の点滴では「肺水腫にならないように点滴する」事が最も重要です。
- ①の結果、血管内の水分は腸内にも流出します。下痢で失われた水分を補給したいのに、反対に下痢を増悪させ体水分を更に減らす結果になります。
- ②の結果、細胞内液から血管内(細胞外液)に水分が移動します。どうなるでしょう?一つ一つの細胞内の水分が奪われ、細胞内はカラカラの状態に、脱水します。
細胞外液と細胞内液は別々の2つのプールです
体水分は体重の60%です。その内訳は細胞外液20%と細胞内液40%です。
- 細胞外液のプールの水分が減り、濃くなっていないか?
- 細胞外液のプールに水分が多く入り、薄くなっていないか?
- 細胞内液のプールの水分が減り、細胞内液の脱水が起きていないか?
を考えながら点滴剤を選び(それはまた後述します)、点滴量を決めていく必要があります。
点滴の量ってどれくらい?
まずどれくらい脱水しているかを知りましょう!
- 軽度脱水 体重の5%未満
- 中程度脱水 体重の5~8%
- 重度脱水 体重の10%
それぞれで牛はどうなっているか?
脱水の程度を知る際、目を見たり、皮膚を引っ張ってその程度を知ることが出来ます。
- 5%未満 目の変化(いわゆる「目が落ちている」)はありません。 皮膚は2秒以内に元に戻ります。
- 5%程度 目の変化はごくわずか。 皮膚は2秒~4秒で元に戻ります。
- 8%程度 目は2~4mm陥没(はっきり奥に凹んでいる) 皮膚は4秒~6秒で元に戻ります。
- 10% 5mm以上著しく陥没(目が奥に引っ込んでいる) 皮膚は6秒以上元に戻らない。
その時の牛の全身の状態は?
- 5%未満 元気はあります。自力でミルクを飲めます。
- 5%程度 少し元気がなく、ミルクの吸いが弱くなります。
- 8%程度 フラフラする。飲む気力も無くなる。
- 10% 横たわって起き上がれない。
目の状態だけで脱水を判断しない!
脱水の判断は「目の変化(落ち具合)」、「皮膚の戻り時間(テントテストと言います)」、「全身の状態」を見ましょう
それは、栄養状態が悪い子牛などでは目の周りの脂肪が少なく、目が落ちているように見える事があるからです。
脱水量を推定しよう!
50kgの子牛だとします。
- 5%脱水 50kg×5%(0.05)=2.5L
- 8%脱水 50kg×8%(0.08)=4L
- 10%脱水 50kg×10%(0.1)=5L
5Lの脱水では5L点滴しなくてはいけないのか?
先にも述べましたが、5%脱水では元気でミルクを飲む、あるいは少し元気がないという状態です。
牛はミルクを飲んだり、水を飲んだり、経口補液剤を飲んだりするので、まずは5%脱水以内の状態まで戻す事を考えます。
つまり50kgの牛がフラフラしてミルクを飲む気力が無いような時は8%脱水として、脱水量4Lの半分2Lを点滴すれば4%脱水まで戻す事が出来ます。
同じように50kgの牛が皮膚が6秒以上戻らない、起立が出来ない状態なら10%と判断し、脱水量5Lの半分2.5Lを点滴すれば5%脱水まで戻す事が出来ます。
「5%脱水以内まで戻す」が大事です。そのメリットは?
- 子牛に5Lを点滴しようとすれば、牛の拘束時間が長くなり、人への負担も大きくなります。
- 4Lや5Lを点滴すれば大量の液体が血管内に入り、牛の心臓や肺への負担が増大します。
- 口から飲む事で腸の粘膜を刺激して消化管の動きが良くなります。
「全部点滴しないと!」と頑張らなくて良いのです。
5%脱水あるいは5%弱の脱水でも牛は喉が渇いています。後は牛が自力で飲んでくれるのを待ちましょう。
但し脱水が5%以内に戻れば必ず飲むか?と言えば、その原因(下痢してお腹が痛い、肺炎で苦しくて飲み込めない)等を軽減してあげないといけません。
脱水さえ戻せば大丈夫!とはならないので、そもそも脱水になっている原因を取り除く事はとっても大事です。
羊の帝王切開
初産の羊 かなりの過肥(太りすぎ)の上、雄が能力が優秀でこの羊の前に分娩したお母さんは
三つ子で2頭は死産でした。
起立は出来たのですが、お腹が重いのか座っている時間が多く、おっぱいもかなり張っていて
牧場主は直ぐにでも帝王切開をして欲しい感じでした。

帝王切開にはトラウマが….
以前牛の帝王切開で大きな失敗をしたことがありました。
子宮を切開して子牛の足を引っ張って出そうとしたのですが、双子な事に気が付かずに、別々の牛の
足を引っ張っていました。一人で手術していたので何で?出てこない!パニックになって双子の可能性
に思いが至らず、かなり時間を要してしまい子も母牛も助からない事があったのです。
前の羊が三つ子だったし、このお腹の大きさからして少なくても双子。三つ子の可能性も充分あるな~
かつてのトラウマと、初産だからまず自分では埋めないから切らなくては!との思い出なかなか決断
出来ずにいましたが、牧場主の顔を見てやるしかない!と準備をしました。
術式は
ブランクがあるのと、一人でやるしかなかったので、左側横臥位でキシラジン塩酸塩(セラクタール)
で全身麻酔しました。実はNOSAI時代にも帝王切開はやった事がありません。所属していた診療所で
一度も帝王切開の手術が無かったのです。信じられないですよね。
一応いつか帝王切開する事になるかも?と頭でのシミュレーションはしていました。
その中で牛では立位(立たせて)、局部麻酔か尾椎硬膜外麻酔でするのが本来であり、全身麻酔では
お腹の中の子牛まで麻酔が効いてしまい、いわゆる「スリーピングベイビー」となり、悪影響がある
と読んだ事がありました。がスリーピングベイビーの実際の悪影響については調べても判らず、また
局所麻酔では母牛が暴れすぎて危ない状況で全身麻酔したという記事も2,3見ていました。
母羊はほぼ立てない状況なので立位はそもそも無理でした。
やはり….三つ子!!
牛と比較して筋肉の厚みが極端に薄く、子宮に到達するのは容易でした。逆に薄すぎて間違ったら
すぐに腹膜を切ってしまう程です。以前別の牧場でメス羊の卵巣だけ取り出すという手術をした事が
あったので、筋層の薄さには最初から気を付けていました。
子羊の足と頭を確保して羊膜を破り1頭目を取りだし(上顎が無い奇形でした)、もう1頭は居るはず
と手を入れるとやはり。2頭目を取りだし畜主に渡して、念のため子宮内を確認…….居ました。
3頭目も取り出し、子宮を縫合。連続縫合で一度切開部を閉じ、その縫合線が内側に入るように
2層目も連続縫合で縫いました(なんとかという縫合法ですが名前を忘れました)。
その後


子羊2頭は出生後も眠っていましたが、アチパメゾール塩酸塩(商品名アンチセダン)を0.3ml
静脈注射したら、1秒程度で目が覚めました。
写真は術後6日目の母羊と子羊(真ん中の白いのはその前に自然分娩で生まれた羊)です。
共に元気そうでとても安心しました。
臍ヘルニアのレア?ケース
牛の臍が腫れている
牛の臍が腫れるのには幾つかのケースがあります。
- 臍ヘルニアになっている
- 臍が化膿して膿が貯まっている(臍帯炎:さいたいえん)
- 臍ヘルニアと臍帯炎を併発している
臍ヘルニアと臍帯炎を現場で判断するにはどうすれば良いでしょうか
- ベロンと下がっている出べその先端辺りを上に(背中側に、お腹の中に向かって)押し込んでみる
- 牛に声を掛けながら、びっくりさせない様に
- 自身は牛の後ろ足の横にかがまない(蹴られます)で、前足の横に牛の尻尾方向に顔を向ける形で触る
- 慣れない場合多少ビビりますが、押し込んでも破れたり内臓が出たりはしません。大丈夫です。
臍ヘルニアと臍帯炎の触感の違い
- 出べそを上に押し込んだ時、ぐにゅとお腹の中に指が入る感じは臍ヘルニアです。指がお腹の中に入った段階でトンボを捕まえ る時の様に指をゆっくり廻してみると丸く穴が空いているのが分かります。その丸い縁をヘルニア輪といいます。指1本くらいの穴ならヘルニアは1指(いっし)と言い、3本の指が入るならヘルニア輪は3指です。
- 出べそを上に押し込んでも堅くて全く持ち上がらない、お腹の中に指が入る気配もないという場合は臍帯炎だと考えて良いと思います。単純なヘルニアの場合は出べそ部分がプニプニしていますが、臍帯炎では堅いのです。堅さはテニスボールやソフトボールくらいで、出べその先端部分だけ少し柔らかい場合もあります。
- 中には堅い出べそをグッと少し強引に押し込むとヘルニア輪を触れる場合もあります。臍帯炎と臍ヘルニアが併発しているケースです。膿も貯まっているけど、臍に穴が空いていてヘルニアにもなっている場合です。
- 堅すぎて触れない事もありますが、臍帯炎だと思われる堅い出べその先端部分を人差し指と親指でグリグリすると中に何かが引っ付いているのを感じる場合があります。臍の切れた端が癒着しているケースは鉛筆の様な芯のある棒状のものに感じますが、芯はなくやや柔らかい場合があります。柔らかい場合はヘルニア輪から脱出して下に下がっている内臓や内臓を包む膜が癒着している事が多いです。このケースも臍帯炎と臍ヘルニアの併発しているケースです。
生産者の出来る処置
- 出べそが硬くて上に押し込んでも持ち上がらない場合は臍帯炎の可能性が高いのでペニシリンやマイシリンを数日注射して堅かった部分が柔らかくなるか確認します(もちろん獣医さんに依頼しても良いです、獣医さんと相談してから注射してください)。
- 数日の注射で全く何も無かったかのようにペタッと引っ込む場合もあります。多くは先端部分がやや柔らかくなります。
- 先端が柔らかくなればいずれ破れて膿が出ます。出べそが大きい場合は一度獣医さんに相談して破れるまで待って良いか確認した方が無難です。大量の膿が出ると出血性ショックではないですが、体液が急激に減少した事でショック死する場合があります。
- 破れて膿が出たら、破れた場所から注射器に入れた生理食塩水などを注入し、グチュグチュと揉んで洗います。破れた場所は2~3日で塞がりますので、塞がるまでは破れた箇所から抗生物質を注入すると良いです。
- 臍ヘルニアかもと思われる場合は獣医さんに相談して手術するか様子を見るか判断してもらいましょう。
- その牛が子牛であって、ヘルニア輪が1、2指ならヘルニア用のベルトがありますので試しても良いと思います。
ヘルニアの手術をするか否かの判断
- 濡れ子導入で育成時点でセリ市場で販売するという牛なら手術しようという判断が一般的だと思います。
- 一貫肥育など素牛販売しない牧場の場合判断が分かれます。私が伺っている牧場でもヘルニアなんか手術しなくても大丈夫だという牧場もあります。さすがにヘルニア輪が4指以上な一応手術した方が良いと思いますよとは伝えます。
- それでもいいよ、手術はしないとおっしゃる牧場もあり、私自身も肥育途中でヘルニアが破れて牛が死亡するというのを診た事がなかったので、そうですかと無理には勧めてきませんでした。
ヘルニアが破れてしまった!

写真の牛は生後9~10ヶ月の牛で、肥育に入ったばかりの牛でした。
その農場では今までヘルニアの手術はしてこなかったので経営者の方も出べそだと認識はしていましたが、急に左の写真のようになりびっくりで連絡が来ました。
脱出した組織は腸ではありませんでしたが、おがくず等でかなり汚染されていたためお腹に返納して縫合するという判断にはなりませんでした。結果この牛は翌朝には死亡してしまいました。
当然あり得る事のはずですが、初めての経験だったので私もとてもびっくりしました。
牧場経営者としては今回のようなレアケースを考慮して全てのヘルニアを手術しようという判断はコスト的には困難であると思います。
我々獣医師はこうなるケースがあると注意深く説明する責任があると強く痛感しました。
破傷風の開帳姿勢と筋肉振戦(動画)
破傷風という病気
またクロストリジウムの話になってしまいますが、ここ何年かクロストリジウムが原因の病気がとても増えている様な気がして・・・実際に現場で遭遇する事も増えました。
さて、破傷風はクロストリジウム・テタニーというクロストリジウム属の菌が原因です。テタニーとは痙攣という意味です。

牛の破傷風の症状と言えば口を食いしばる様な「牙関緊急(がかんきんきゅう)」と呼ばれる症状と、四肢を硬直伸長して首も後ろにグーと反ってしまう「後弓反張(ごきゅうはんちょう)」が特徴的です。
四肢は曲げようとしても曲がりませんし、首を戻しても直ぐ反ってしまいます。
ほとんどの場合発見した時にはこの状態になっていて、慌ててペニシリンやアンピシリンを頻回投与しても残念ながら助けられない事が多いです。
この状態でも1週間~10日生きている事もあり、牧場の人が見かねて安楽死してくれとなるのです。
破傷風の症状(教科書的には)
「牛の臨床」によると
潜伏期は1~3週間で、まれにさらに長期間を要する事もある。初期症状としては、騒音や光に対する反応の亢進がみられ、不安そうにしたり、興奮しやすくなったりする
と初期症状についてありますが、この時点で発見する事はほぼ無いでしょう。その後症状が進むと
四肢、頚部、尾部の筋肉が硬直し、その結果、歩く事を嫌がったり、尾の挙上がみられたりする。静止しているときに開帳姿勢(いわゆる「木挽台」あるいは「木馬」様姿勢を取ることもあり、さらに耳翼開帳、鼻翼開帳、瞬膜露出、牙閑緊急、流涎などがみられる。
とあります。
上の動画は典型的な開帳姿勢と筋肉振戦、流涎が見られた牛です。
とは言っても遭遇したのは初めてでした。何十頭も破傷風の牛は見ましたがいきなり「後弓反張」の牛ばかりでした。
この牛のその後
最近破傷風が多く、自宅に破傷風血清を4本(50mlを4本)持っていたのですが、何日か前に別の牧場で3本使ってしまい1本しかありませんでした。
破傷風血清は早期に100~200mlを注射するものなのですが、50mlしか無かったんです。
とりあえず50mlを静脈注射し、静脈注射できるペニシリン(結晶ペニシリン)を5日間朝、夕2回打ってもらいました。
なんと助かりました。目をひんむいてる様子は変わりませんが、開帳姿勢と筋肉振戦は無くなり食欲も正常です。
破傷風血清の課題
動画の牧場では血清を注射した前後にも破傷風が発生しました。血清を取り寄せるのに何日か要した為、前後の牛はペニシリンだけの対応で、結果助かりませんでした。
血清を投与するまでの時間との勝負だと思います。但し血清は1本約2万円しますので、発生するか判らないのに、牧場で常備してもらう事は出来ません。
そこで発生の比較的多い(年間何頭か出る)牧場にはそれぞれ2本冷蔵庫で保存してもらい、使用した後請求する事としました。使用せず使用期限が切れたら新しい血清と交換するという事で。使用期限が切れた血清は廃棄するので私の負担となるのですがそれは致し方ないと思いました。
獣医師としては発生するか判らないのに常備出来るか?そして発生後いかに早く投与出来るか?が課題になると思います。