畜産現場で気をつけるべき 人の病気③ サルモネラ、パスツレラなど

このエントリーをはてなブックマークに追加

 サルモネラも人畜共通感染症です

  サルモネラ菌とは

我々牛に携わる人にとってサルモネラ菌はサルモネラ・ダブリン、サルモネラ・ティフィミリウム、サルモネラ・エンテリティディス、サルモネラ・コレラエスイスの4種がとても重要ですが、そもそもサルモネラ菌ってどれくらいの種類があるのだろうか?と調べてみるとなんと2,500種類もあるそうです。

そしてその中でサルモネラ症の原因菌は1,400種もある様です。日本国内で全国レベルで発生した食品に由来したサルモネラ症として1980年代後半から急激に増加した鶏由来のサルモネラ・エンティリティディスによる食中毒の事例があるようです。

鶏のサルモネラについては生卵でサルモネラ症の危険がある程度の認識しかありませんでした。まさか牛で問題となるサルモネラ・エンティリティディスと同じ血清型であるとは不勉強にもほどがありますね

一般的にはサルモネラ症は動物に由来(卵、肉など)しますが、畜産現場では直接経口的に、あるいは手についたサルモネラ菌をよく洗わないで食事するなどにより感染します。

症状は下痢、嘔吐、腹痛、悪寒、発熱、頭痛などです。特に腹痛については立っていられない程度と表現されます。

ある時子牛のサルモネラ症が発生していた牧場の子牛担当者が腹痛と酷い下痢で休んでいました。「あれっ?今日休み?」と聞いたらそんな事で「牛のサルモネラに感染した可能性があるからすぐ電話して、お医者さんに牧場で働いている事と、今担当牛舎でサルモネラが発生している事を言う様に伝えて!」と小パニックになった事がありました。幸い陰性でしたが….

  大腸菌症

大腸菌は人や動物の腸内に普通に存在しています。大腸菌はいわゆる「ばい菌」であるとは知っているけど破傷風やクリプトスポリジウム、サルモネラと同じ人畜共通感染症として大事なの?という疑問はあるでしょう。

 

腸管出血性大腸菌というものがあります。wikipediaから引用します

腸管出血性大腸菌とはベロ毒素、または志賀毒素と呼ばれている毒素を産生することで病原性をもった大腸菌である「病原性大腸菌」の一種である。このためベロ毒素産生性大腸菌、志賀毒素産生性大腸菌とも呼ばれる。この菌の代表的な血清型別には、O157が存在する。

O157を知らない方は居ないでしょう。1990年埼玉県浦和市の幼稚園で井戸水が原因の食中毒が発生しました(園児2人が死亡)、また1996年大阪府堺市で小学校の学校給食で出された食品がO157に汚染されており9000人を超える集団感染が発生(小学生4人が死亡)しました。

ユッケや生レバーが食べられなくなった原因ですね。

一般的には汚染された食品を食べる事で感染しますが、サルモネラ同様畜産現場では直接傾向的に摂取してしまうリスクがあります。

人が大腸菌症を発症するのに必要な菌数はわずか50個程度です。非常に酸に強く胃酸で失活すること無く腸まで到達します。

    人での大腸菌症の症状

恐ろしい病気であるのは確かですが場合によっては無症状や軽い下痢で済む事もあります。但し酷い場合激しい腹痛、頻回の水様便、激しい下血が見られる事があり、亡くなる場合もあります。

感染者の約半数は3~8日の潜伏期間の後、激しい腹痛と頻回の下痢の症状が出ます。その翌日には血便が見られますが当初は血の量はわずかです。その後次第に出血量が増え、典型的な症状で血液がそのまま出ている様な状況になる。サルモネラに比べると嘔吐は少ない様です。

畜産現場では下痢という病気があまりにも当たり前で我々も慣れてしまっていますが、とにかく畜産現場で働く全ての人は下痢に対して非常に注意が必要です。

  牛皮膚糸状菌症

牛に携わる人で見た事無い人はまず居ないであろう病気。ここ十勝地方では「ガンベ」とか「トクフク」と呼ばれています。

原因はTorichophyton verrucosum(トリコフィトン ベルコーサム)という真菌(カビ)です。子牛から育成牛で見られ主に頭から首、目の周りなどに出来ます。皮膚が円形に禿げ痒みを伴います。

抵抗力の弱い牛で出ると言われていますが、1度感染して治れば2度は罹りません。

牛における皮膚糸状菌症の詳細については別の機会にするとして今回は人畜共通感染症としての皮膚糸状菌症について書いていきます。

人の水虫やタムシと同じ原因で、人に感染してパッと見るとタムシそのものです。非常に痒いです。人によってはタムシの様な病巣でなくかなり腫れ上がる人もいます。

牛の現場で働く人でやたら痒いという人は直ぐに皮膚科に行きましょう。放っておいて治るものではありません

この写真はなんと恥ずかしながら私です。この地域の皮膚科では珍しく無いのか「猫か牛飼ってますか?」と直ぐ聞かれました。お?猫が最初に来るか~と思った記憶があります。

検査がとても痛い。患部をヘラの様なものでガリガリ血が出るくらい削って顕微鏡で見る様です。「当たりでしたね」との事

抗真菌薬の飲み薬と塗り薬を処方され、最終的に治るまで1ヶ月かかりました。私は直径3~5cmくらいでしたが、もっとずっと大きくなる人も居るようです。

  パスツレラ症

牛に携わる人なら一度は聞いた事があるパスツレラ症。実は人畜共通感染症なんです。

私が学生だった頃パスツレラ症が人畜共通感染症だと習った記憶が無いような?と思ってちょっと調べてみると気になる記述を見つけました。

人のパスツレラ症は症例が多くない病ですが、近年は増加傾向にあるそうです。色々な要因があるのですが実は検査技術が向上したことで、今までペット等から感染する「原因不明の病気」がパスツレラ症だ、と判った事も一つの要因であるそうです。

そう言えば人畜共通感染症に「猫ひっかき病」というものがあった様な気がする。

   一般的なパスツレラ症の感染源

猫のほぼ100%近く、犬の75%近くが保菌しているとの事。しかし犬、猫がパスツレラ症を発症することはほとんど無い。犬や猫に噛まれたり引っ掻かれる事で感染します。発症すると数時間で患部が赤く腫れ上がり痛みや発熱があります。リンパ節が腫れたり蜂窩織炎(ほうかしきえん)を起こしたりします。

この蜂窩織炎、牛でもよくありフレグモーネと呼ばれる事もあります。非常に治りにくい厄介な病気です。皮膚とその下の皮膚脂肪の間に細菌感染して皮下で広がっていく炎症です。

この場合の蜂窩織炎はパスツレラ・マルトシーダという菌による感染です。

以前はパスツレラ症は蜂窩織炎や皮膚化膿症として認識されていた様ですが、近年は呼吸器疾患、骨髄炎、髄膜炎、敗血症など重篤な症状に進行する可能性があると言われる様になりました。

私の不勉強のせいではあるのですが、私たち世代ではパスツレラ症が人畜共通感染症である事を知らない人も多いのではないかと思います。

   牛におけるパスツレラ症

色々調べてみると牛におけるパスツレラ症は敗血症を引き起こすという紹介が多いようです。我々とは少し認識が違うような….

牛ではごくごく当たり前の「肺炎の原因菌」です。もちろん他の細菌やウィルスと混合感染すれば重篤な症状になる事もありますが、パスツレラより厄介な細菌もあるので一級の警戒をするというほどの細菌ではないのです。

 

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA