サルモネラワクチンからエンドトキシンの話

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サルモネラワクチンの話からエンドトキシンの話へ

 サルモネラワクチンについて

牛のサルモネラワクチンは2つの会社から出ている2種類です。一つは明治製菓ファルマ(現meiji seika ファルマ)の「牛サルモネラ2価ワクチン」でもう一つはMSD Animal Healthの「ボビリスS」です。牛サルモネラ2価ワクチンは欠品中なのでボビリスSしかありません。

2つのワクチン共サルモネラ・ダブリンとサルモネラ・ティフィミリウムの発生予防が目的なのは同じです。価格はボビリスSが少し高い。それはボビリスSはサルモネラ菌が死滅する時に放出されるエンドトキシンを吸着できるからとの事。

確か15年以上前にサルモネラワクチンを打つと牛が崩れるという話をよく聞きました。今考えるとエンドトキシンの影響だったのかと思います(エンドトキシンの話は後述します)

 ワクチンの効果はあるの?

3週間間隔で2回摂取します。3ヶ月齢前後でサルモネラが流行した牧場で導入間もなくワクチンを打つようになって、その後ピタリと発生が無くなりました。効果は確実です。

残念ながら最近は濡れ子(生後1週間から2週間くらいの牛)を導入して直ぐにサルモネラワクチンを打っても2回目の摂取は導入後3週間目になり、その間に発症するケースが多いです。ただ全くワクチンを打っていない時より症状は軽く済むというのが印象です。

 エンドトキシンとはなんぞや

サルモネラ菌や大腸菌などはグラム陰性菌という種類の菌です。グラム陰性菌はその膜にリポ多糖類を含み、そのリポ多糖類がエンドトキシン(簡単に言えば)。

エンドトキシンが血流に入れば発熱、呼吸促迫、低血圧を起こしひどい場合にはショックを起こします(エンドトキシンショック)。かつてサルモネラワクチンを打つと牛が崩れるという話は血中エンドトキシンが増えた事によるのでは?

そうするとワクチンを打つとサルモネラ菌が死ぬのか?という疑問が生じますが、違う機序の様な気がします(いつか専門家に聞いてみます)。

 肉牛におけるエンドトキシン

肥育牧場の方はよく耳にする言葉でしょう。サルモネラ菌や大腸菌もグラム陰性菌ですが、牛の第1胃にも飼料などを発酵させる菌がたくさん居てグラム陰性菌も多く住み着いています。

どのような時にルーメン(第1胃)内のグラム陰性菌は死ぬのでしょうか?牛は配合飼料と粗飼料を食べます。配合飼料はルーメンで発酵するとプロピオン酸や酪酸などの酸を発生します。

適切な給餌で適切な配合飼料の量であれば問題ありませんが、配合飼料を粗飼料より先に餌槽に給餌したり、粗飼料の量が少なかったり、大量の配合飼料を与えたり(肥育はそうゆう作業ですから仕方ないのですが……)すると酸が急激に増えてルーメン内が酸性になります。

この酸によりルーメン内のグラム陰性菌が死にます。そしてエンドトキシンがルーメン内に放出されるのです。

 エンドトキシンの悪影響

肥育牧場のみでなく育成牧場の離乳後でも見られますが、エンドトキシンが大量に放出されるとルーメンの粘膜が傷つき禿げてしまいます(ルーメンパラケラトーシス:第1胃不全角化症という病気)。

禿げた所からエンドトキシンが血流に乗り肝臓へ行くと障害を起こし肝臓廃棄が増えます(肥育牛で)。

たくさんの酸(ガス)が出るので鼓張症も起きます。

また、エンドトキシンが放出されると普段は眠っているヒスタミンが活性化され、血管を拡張させます。牛の飛節から下が1.5倍~2倍くらいに腫れているあれです。血管が拡張したことで血漿成分が染み出て太くなって冷性浮腫を起こします。

更にヒスタミンは蹄で炎症を起こします。これが蹄葉炎、いわゆるツッパリ病です。

 獣医師としての対応

もちろんそれぞれの病気に対してそれぞれの治療を行いますが、肝臓廃棄が多いあるいはガスが多い等飼養管理面の原因の究明をします。今回は新しいアプローチ(不勉強なだけかも?)を見かけましたので紹介します。

宮城県農業共済組合連合会 古川家畜診療所による「エンドトキシン血症とその治療法」東北家畜臨床研究会報.No.8 64~69によると

ルーメンアシドーシス、産褥熱、乳房炎では比較的高い血中エンドトキシン濃度が観察され、それらの牛に対し、UDCを投与した所、明らかな血中エンドトキシン濃度の減少が見られた。

とありました。UDCはウルソデオキシコール酸、つまりウルソです。ただし以下の文章が続きます。

しかし一度組織に結びついたエンドトキシンを引き離すことは、むずかしいといわれている。そこでこの胆汁酸製剤は、細菌死滅数時間後にエンドトキシン濃度が増加すると推測される時に、他の薬剤と併用することで、より多くの効果をあげることができるとおもわれる。

との事。いつまでたっても知らない事ばかり。勉強は大切ですね。

 

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