そもそもウルソってなんだっけ?
先回エンドトキシンの話で血中のエンドトキシン濃度を低下させるのにウルソデオキシコール酸が効果があったという宮城県農業共済組合連合会の「エンドトキシン血症とその治療法」(東北家畜臨床研究会報NO.8 64~69) という論文について紹介しました。
使用するタイミングについては考えるところはありますが、私には新しいアプローチでした。不勉強のせいで長いこと「強肝剤」だと思っていましたが、ある時添付文書を見る機会があり(普通は最初によく読みますよね…..(^^;) )あれ?と。
牛に使うウルソデオキシコール酸は静注用と経口投与用があり、また豚用に筋注用の注射液もあります。昔は肥育牛で中期の食い止まりや代謝性腸炎などの時によく静注用を使っていました。経口用はあまり使っていませんでした。
静注用と経口用では使用するケースが違うのか?
静注用ウルソの添付文書には①利胆作用(胆汁酸のうっ滞を改善)②肝血流量の増加③脂肪吸収促進、その他ちょっと難しそうな作用が2,3あって、膵液分泌促進作用となっています。
経口用ウルソの添付文書にはその他に胃液分泌促進作用が加わっています。①②その他ちょっと難しそうな作用は確かに強肝剤だと言えます。③の脂肪吸収促進作用と膵液分泌促進作用、胃液分泌促進作用って消化を助ける作用ですよね。昔子牛の下痢でエンドコールやウルソV(豚用の筋注できるウルソ)をよく使いましたが正直ウルソの効果は疑問でした。
ウルソ注射とウルソ粉の違い
ウルソVは体重1kgにウルソデオキシコール酸として1mg(あくまで豚の場合)なので体重50kgの子牛には50mg(製剤として5ml)、一方ウルソ5%散は1頭100~150mg(製剤として2~3g)。投与量の問題でした。足りなかったんですね(^^;)。
牛用の静注用ウルソを使えば良かったのですが、注射器に吸う時にとても泡立つのとブドウ糖以外とは混注できないなど多少使いづらい事もあって避けてました。
子牛がミルクを飲まないと起きる事
子牛がミルク飲まないというケースは多々ありその影響は色々な事に及びますが、今回はウルソデオキシコール酸の話なのでウルソデオキシコール酸(胆汁酸)への影響を考えてみます。
子牛がミルクを飲むと血中コレステロールが上昇してコレステロールは肝臓で色々な物に合成される原料となります。その一つが胆汁酸(ウルソデオキシコール酸)です。さて胆汁酸の作用には脂肪吸収促進作用や膵液分泌促進作用、胃液分泌促進作用があると先に記しました。
下痢であれ肺炎であれ何らかの原因でミルクが飲めない子牛は肝臓での胆汁酸の合成が低下します。つまりミルクの消化や脂肪吸収能力が低下します。そうすると朝飲んだミルクを消化できずに夕方のミルクは飲めない。夕方飲めないので胆汁酸の合成が低下するけど、朝はお腹が空いているので飲む。でも夕方は消化できないので飲めない、という悪循環に陥ります。
他の原因もありますが朝は飲むけど夕方のミルクは飲まないというケースではこのケースが多い様に思います。朝ミルクを飲んだ後ウルソを与え夕方は飲んでも飲まなくてもウルソを飲ませる。何日か継続するとミルクを飲まなくても消化能力の低下は避けられ、夕方のミルクも飲めるようになり、肝臓での胆汁酸の合成が正常化して悪循環から抜けられるのです。もちろん大元の下痢や肺炎などの治療は必須ですが…..
ただし悩ましい問題もあるので注意が必要
大変な酒飲みなのですが一度夏バテして以来、いつもの量を飲んでも翌日お酒が残る日々が続いた事がありました。車には牛用のウルソがあったのでよしって事で飲んでみました。ティースプーン1杯を毎夕に。さすが強肝剤、二日酔いはほぼ無くなりこれは良いと続けていました。
が、下痢に悩まされる様になったのです。元々お腹が緩い方ですがあまりにも酷いのでもしかしてと思い調べてみるとなんと人で「胆汁性下痢」なるものがあると知りました。胆汁酸の他の作用に大腸の蠕動(動き)を促進するというものがあったのです。
牛では聞いたことがありませんし、添付文書には牛用ウルソ(豚も)に下痢を引き起こす可能性についての記述はありません。今のところ牛でウルソを与えた事で下痢が悪化したという経験はありませんが、人で起こりうる事は牛でも当然起こり得ます。
上記のミルクを飲めない牛の場合、朝夕ウルソを飲ませて順調に飲むようになってから2~3日でウルソの投与は止めてもらう様にしています。なんでもやり過ぎは良くないですね。