牛の臍が腫れている
牛の臍が腫れるのには幾つかのケースがあります。
- 臍ヘルニアになっている
- 臍が化膿して膿が貯まっている(臍帯炎:さいたいえん)
- 臍ヘルニアと臍帯炎を併発している
臍ヘルニアと臍帯炎を現場で判断するにはどうすれば良いでしょうか
- ベロンと下がっている出べその先端辺りを上に(背中側に、お腹の中に向かって)押し込んでみる
- 牛に声を掛けながら、びっくりさせない様に
- 自身は牛の後ろ足の横にかがまない(蹴られます)で、前足の横に牛の尻尾方向に顔を向ける形で触る
- 慣れない場合多少ビビりますが、押し込んでも破れたり内臓が出たりはしません。大丈夫です。
臍ヘルニアと臍帯炎の触感の違い
- 出べそを上に押し込んだ時、ぐにゅとお腹の中に指が入る感じは臍ヘルニアです。指がお腹の中に入った段階でトンボを捕まえ る時の様に指をゆっくり廻してみると丸く穴が空いているのが分かります。その丸い縁をヘルニア輪といいます。指1本くらいの穴ならヘルニアは1指(いっし)と言い、3本の指が入るならヘルニア輪は3指です。
- 出べそを上に押し込んでも堅くて全く持ち上がらない、お腹の中に指が入る気配もないという場合は臍帯炎だと考えて良いと思います。単純なヘルニアの場合は出べそ部分がプニプニしていますが、臍帯炎では堅いのです。堅さはテニスボールやソフトボールくらいで、出べその先端部分だけ少し柔らかい場合もあります。
- 中には堅い出べそをグッと少し強引に押し込むとヘルニア輪を触れる場合もあります。臍帯炎と臍ヘルニアが併発しているケースです。膿も貯まっているけど、臍に穴が空いていてヘルニアにもなっている場合です。
- 堅すぎて触れない事もありますが、臍帯炎だと思われる堅い出べその先端部分を人差し指と親指でグリグリすると中に何かが引っ付いているのを感じる場合があります。臍の切れた端が癒着しているケースは鉛筆の様な芯のある棒状のものに感じますが、芯はなくやや柔らかい場合があります。柔らかい場合はヘルニア輪から脱出して下に下がっている内臓や内臓を包む膜が癒着している事が多いです。このケースも臍帯炎と臍ヘルニアの併発しているケースです。
生産者の出来る処置
- 出べそが硬くて上に押し込んでも持ち上がらない場合は臍帯炎の可能性が高いのでペニシリンやマイシリンを数日注射して堅かった部分が柔らかくなるか確認します(もちろん獣医さんに依頼しても良いです、獣医さんと相談してから注射してください)。
- 数日の注射で全く何も無かったかのようにペタッと引っ込む場合もあります。多くは先端部分がやや柔らかくなります。
- 先端が柔らかくなればいずれ破れて膿が出ます。出べそが大きい場合は一度獣医さんに相談して破れるまで待って良いか確認した方が無難です。大量の膿が出ると出血性ショックではないですが、体液が急激に減少した事でショック死する場合があります。
- 破れて膿が出たら、破れた場所から注射器に入れた生理食塩水などを注入し、グチュグチュと揉んで洗います。破れた場所は2~3日で塞がりますので、塞がるまでは破れた箇所から抗生物質を注入すると良いです。
- 臍ヘルニアかもと思われる場合は獣医さんに相談して手術するか様子を見るか判断してもらいましょう。
- その牛が子牛であって、ヘルニア輪が1、2指ならヘルニア用のベルトがありますので試しても良いと思います。
ヘルニアの手術をするか否かの判断
- 濡れ子導入で育成時点でセリ市場で販売するという牛なら手術しようという判断が一般的だと思います。
- 一貫肥育など素牛販売しない牧場の場合判断が分かれます。私が伺っている牧場でもヘルニアなんか手術しなくても大丈夫だという牧場もあります。さすがにヘルニア輪が4指以上な一応手術した方が良いと思いますよとは伝えます。
- それでもいいよ、手術はしないとおっしゃる牧場もあり、私自身も肥育途中でヘルニアが破れて牛が死亡するというのを診た事がなかったので、そうですかと無理には勧めてきませんでした。
ヘルニアが破れてしまった!
写真の牛は生後9~10ヶ月の牛で、肥育に入ったばかりの牛でした。
その農場では今までヘルニアの手術はしてこなかったので経営者の方も出べそだと認識はしていましたが、急に左の写真のようになりびっくりで連絡が来ました。
脱出した組織は腸ではありませんでしたが、おがくず等でかなり汚染されていたためお腹に返納して縫合するという判断にはなりませんでした。結果この牛は翌朝には死亡してしまいました。
当然あり得る事のはずですが、初めての経験だったので私もとてもびっくりしました。
牧場経営者としては今回のようなレアケースを考慮して全てのヘルニアを手術しようという判断はコスト的には困難であると思います。
我々獣医師はこうなるケースがあると注意深く説明する責任があると強く痛感しました。